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皇族の邸宅から美術館となった「東京都庭園美術館 旧朝香宮邸」vol.1

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東京都庭園美術館は、1933年に皇族の朝香宮邸(あさかのみやてい)として建てられました。その後、1983年にはアール・デコ様式の建物の空間を活かして美術館として開館しました。2014年には新館が完成、2015年には本館、正門、茶室等が国の重要文化財に指定されています。

美術館の開館以降は、「歴史的建造物」「美術作品の鑑賞」「緑豊かな庭園」を同時に楽しめるユニークな美術館として人々から愛されています。

東京都庭園美術館の概要

  • 建設:1933年
  • 設計・デザイン:アンリ・ラパン、ルネ・ラリック、宮内省内匠ほか
  • 日本の重要文化財

皇族の邸宅だった建物が美術館に

東京都庭園美術館の歴史

東京都庭園美術館の本館は、1933年に皇族の朝香宮家(あさかのみやけ)の自邸として建てられました。2年半のあいだ、フランスのパリで過ごされた殿下と妃殿下は当時フランスで流行っていたアール・デコ様式を好んで用いられました。

ところが、完成から半年後に妃殿下は亡くなってしまいます。情熱を注いでデザインされたこの邸宅に住んだのは、たったの半年でした。その短い年月を考えると、どんな気持ちだったろうか…と心が痛みます。残されたご家族は1947年までこの邸宅に住まわれました。

その後、政府が土地と建物を借り受け、吉田茂が外相・首相の公邸として使用しました。また、国賓を迎えるための迎賓館として役割を果たした時期もあります。

1983年には東京都が運営する美術館として開館し、建物の特性を活かしながら美術作品を紹介する特色のある展覧会が開催されて今に至っています。

ふんだんに取り入れられたアール・デコ様式

アール・デコとは、1925年にパリで国際博覧会が開かれた際に全盛期を誇った装飾様式です。この東京都庭園美術館はアール・デコ様式がふんだんに用いられ、建物全体が美しく彩られています。フランス人デザイナーや宮内省内匠寮(くないしょうたくみりょう)の技師たちによる高度な技術が発揮され、建物全体が芸術作品と言えるほどの作品となっています。

内装にかかわった一流のデザイナーたち

宮内省内匠寮

現在の宮内庁(くないちょう)の中にあった組織で、皇室の建築や儀式で使用する建物の設計を担当しました。当時に在籍していた優秀な技術者たちの手によって、フランスのアール・デコと日本の美学が融合した見事な設計が行われています。

アンリ・ラパン

フランス人の画家であり、内装や家具のデザイナーでもあるアンリ・ラパン。この建物では「大広間」「次室(つぎのま)」「大客室」「大食堂」「小客室」「書斎」「殿下の居間」の全7室の内装デザインを手掛けました。

ルネ・ラリック

フランス人のジュエリー・デザイナーであり、ガラス工芸家。アール・ヌーヴォー期のジュエリーのスタイルを確立した第一人者です。この建物の中にはルネ・ラリックが制作したシャンデリアやガラスレリーフ扉が設置されています。

他にも、妃殿下ご自身も暖炉のグリルや寝室のラジエーターレジスターのデザインなどに関わっておられます。また、当時フランスで活躍していた芸術家として彫刻家のレオン・ブランショ、ガラス工芸家のマックス・アングラン、鉄工芸家のレイモン・シュブらが起用され、世界でもここにしかない一点ものの作品が随所に散りばめられています。この建物は、海を超えて日本とフランスの芸術家たちが共同制作した一大傑作なのです。

可能な限り建物が素の状態で公開された企画展

旧朝香宮邸を読み解くA to Z

2024年2月には、美術館として開館40年の企画展が開催されました。「旧朝香宮邸を読み解くA to Z」というこの企画展では、可能な限り建物が素の状態で公開され、普段は見ることができない箇所も一部公開された貴重な展示会となりました。

今回は、こちらの展示会で撮影した写真とともに、旧朝香邸(建物)と庭園の魅力についてお伝えいたします。美術館は随時、企画展を行なっていますので最新の情報は公式サイトでチェックしてくださいね。

旧朝香宮邸の1階の見どころ

まず建物全体として、1階部分はお客様を迎える公的な空間、2階部分は皇族の朝香宮家の皆さまの私的な空間として設計されています。

ルネ・ラリックのガラス扉が美しい「正面玄関」

建物に入るとまず目に止まるのは、ルネ・ラリックが製作したガラスレリーフ扉です。この邸宅のためにデザインされた特注の作品です。優雅に翼を広げた天使たちが匠の技で造られています。なめらかな艶消し加工がされた特殊なガラスで、ルネ・ラリックはこの質感を「SATINE」(絹のような)と呼んでいたそうです。

床のモザイクタイルは宮内省内匠寮(くないしょうたくみりょう)による制作で、天然石の持つ本来の色を生かしてデザインされています。この綺麗は発色は、すべて天然の色だそうです。

40個の照明が整然と配置された「大広間」

天井には40個の照明が整然と配置されています。壁面に使用されたウォールナット、壁面の大理石のレリーフなどの高級素材が、重厚感を醸しだす空間となっています。

この建物は鉄筋コンクリート造ですが、建物の中にはいくつもの木材が使用されています。床面には木を組み合わせたデザインがはめこまれ、職人さんたちの精緻が技を見ることができます。(普段は保護のためにカーペットが敷かれていますが、展示会のため一時的に公開されていました)

香水塔が存在感を放つ「次室(つぎのま)」

大広間から続く次室(つぎのま)には、アンリ・ラパンがデザインした「噴水器」が中央に据えられています。皇族の朝香宮(あさかのみや)が住まわれた際は上部の照明部分に香水を注ぎ、照明の熱によって香水の香りを漂わせたという話があります。そのためこの噴水器は後世の人々から「香水塔」と呼ばれるようになりました。

モザイクタイルの床、あざやかな朱色の人造石の壁、白磁の噴水器、庭に広がる庭園の緑、これららの色とりどりの色彩によって華やかなアール・デコの空間となっています。

アンリ・ラパンの絵が描かれた「小客室」

小客室には、アンリ・ラパンの絵が壁面4面に大きく描かれています。淡いグリーンを基調とした生き生きと茂った木々と水のある風景。まるで室内にいながらも森の中にいるような落ち着いた印象です。

フランスの芸術家による傑作「大客室」

次室(つぎのま)に続く大客室は、見どころいっぱいの大部屋です。アンリ・ラパンの壁画、ルネ・ラリックのシャンデリア、マックス・アングランのエッチング・ガラス扉、その扉の上部にはレイモン・シュブの半円形の工芸作品。

この部屋だけでも、フランスの芸術家による作品がところ狭しと並んでいます。4人の芸術家が個性を出しつつも互いに調和し、空間全体が1つの芸術作品と思わせるような見事なバランスです。

遊び心が感じられる「大食堂」

大客室に続く大食堂は、庭園を望む南向きの窓が特徴的な明るい部屋となっています。シャンデリアにはパイナップルとザクロ、壁画には色とりどりの果物、ラジエーターカバーには水中を泳ぐ魚など、随所に食べ物のモチーフが散りばめられています。遊び心が感じられる楽しい空間です。

和のテイストを感じさせる「小食堂」

この邸宅はアール・デコ様式を大いに取り入れた建物ですが、時折、和のテイストを感じさせる空間があります。小食堂のその1つ。この部屋は皇族の皆さまが家族で食事をする際に使用していた部屋だと言われています。

杉材を使用した天井、和風なデザインを取り入れた照明器具、床の間のスペースもあり、日本古来の文化を生かした空間に仕上がっています。

アール・デコの幾何学模様が美しい「階段」

2階へと続く階段は、アール・デコの特徴であるジグザグのラインが強調されているのがポイント。階段のステップ、腰壁、手すりには大理石が用いられています。

アール・デコ特有の幾何学模様で、可憐な花のモチーフが描かれています。

続いては朝香宮家の2階や新館、庭園、カフェ、レストランなどについてご紹介します。こちらの記事からご覧ください!

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東京在住、WEBデザイナー&フォトグラファーのRubyです。日本各地に出かけて心に留まったものを写真に収めています。 日本の美しさ、日本の素晴らしさをもっと世界に広めたい、そんな想いでブログを始めました。旅行の時にぜひ立ち寄ってほしい観光スポットや建築、カフェ、ホテルなどをご紹介します。
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